「父の遺伝」 植杉千尋さん(4西3)

 私の父は稀にみる天然だ。
 家族皆でお鍋を囲んだ際、すり身を食べながら「これってなに身?」と聞いてきたり、我が家で飼っている丘ヤドカリの事を何度注意しても「ザリガニ元気?」と言ったり、『チューハイ』の事は100%必ず『ハイチュウ』と言ったり…数を挙げればきりがなく、天然な行動も多く、特に言い間違いは日常茶飯事だ。
 そんな父に対して思春期を迎えた私は父に似ているという事がとても嫌だった。見た目は、オシャレで若くて自慢だった母に似ていると言われたかった。しかしどの写真を見ても、そこに写っている私は父によく似ていた。鏡に映る私もどこからどう見ても父に似ていた。そんな事実を再確認しながらガックリと肩を落とすのであった。
 そして性格もしっかりと遺伝は受け継いでいた。私も昔から言い間違いをする事が多かった。行動も抜けている事が多く人生で唯一主役になれる結婚式で当時の上司にあいさつで私の抜けているエピソードを話され、段上で花嫁の私は赤面するのであった。
 大人になり、私は父の話を周りから耳にする機会が増え、その度に誇りに思い私も父の様になりたいと思った。顔もいつも七福神の恵比寿天の様ににこにこしている父に似ているのも悪くないなと思う様になった。
 私は父の子供で本当によかった。
 私には今小6の娘がいる。そんな娘も「お父さん似だね」と言われガックリと肩を落としている。
 そんな娘を横で見て、当時の私を思い出し、懐かしく微笑ましく思うのであった。

(2018年5月号・広報とうま掲載文より・第131回エッセー)