「魂を呼び起こす言葉がある」 佐藤幸治さん(伊1)

二十数年前、某新聞に掲載されていたある記事に強い衝撃と深い感銘を受けたことがあった。
当時、40代後半に差し掛かっていた僕は、時折無気力になり惰性に流されていた時期があった。
そんな無気力な僕を見かね、新人の頃から何かと面倒を見てくれた大先輩に「年齢なんか関係ないぞ。初心の頃の激しく高ぶる思いを眠らせるな」と叱責された。
それからしばらくして何気なく新聞を見ていた時、あの記事が目に止まった。
口に出して上手く説明は出来ないが、その記事は僕の心底に深く入り込むと一瞬にして負の心から蘇生するように覚醒させてくれた。
あの頃、仕事や対人関係で時々心が折れそうになった弱気な僕を救ってくれたのがその記事の中の言葉だった。
今回、同紙の執筆依頼があったので、その記事のことについて紹介したい。
そのストーブの正面に彫刻された「N A N M O S A S T O V E1868」という文字。煙突部分には、1868(明治元年)12月15日官許蝦夷共和国総裁榎本武揚とある。
松前藩をやぶり日本から独立、初代蝦夷共和国総裁に選ばれたのが榎本武揚だった。彫刻のモチーフになったのはタコストーブ。雪と寒さで凍え死ぬことの多かった北海道開拓時
代。ロシアの軍人に教えられたダルマストーブ。タコの頭のような形から名づけられたという。この彫刻の作者、流政之は「NANMOSASTOVE」と名付ける。「どおって
ことないよ」といった意味あいをもつこの北海道弁「なんもさ」。厳しい冬を乗り越えてきた開拓民たちが、その時代のさまざまな辛さを吹き飛ばすように「なんもさ」と言ってきたのだ。
そしてその言葉には、北海道民が忘れてはいけない、たくましさ、おおらかさ、開拓者魂が込められているのだ。石に刻まれる蝦夷共和国の歴史。開拓者魂が込められた北海道
弁「なんもさ」。
不条理や理不尽な事柄が平然と横行する現在。私たちには今、『なんもさ!』と言って時代を生き抜くスピリットが必要なのかもしれない。

(2019年8月号・広報とうま掲載文より・第145回エッセー)