「通い作」  野呂 一夫 さん (4西3)

 いずれはこの地に住もうかと、美瑛町の市街地に100坪ほどの土地を用意していた。でも、縁あって当麻町にお世話になり、その用がなくなったので、通いになるが畑にすることにした。
 畑作の経験はないから書物を頼り、また、詳しい人を見ては勝手に師匠と決めて教えを乞う。今なおそうしながらも、育てている作物は十指(じっし)に余る。 作物といえば近年、健康志向から無農薬や有機への関心が高まっている。素人には至難の業であっても、魅力はある。だから完璧を期せず、いわゆる“モドキ”で取り組んでいる。結果は推して知るべし ― だが、今によく言う「安心安全」にだけは自信を持つ。
こんな“美瑛産”を、はた迷惑にも自慢げに語り、親戚や知人に押売りならぬ“押配り”で自己満足している。
ところで、北欧などでは富裕層が家庭菜園用別荘(ダーチャ)を建て、週末などを家族で過ごし楽しむという。この畑にも2坪弱の小屋がある。廃材利用の大層お粗末な代物で、しかも電気や水道もない。でも、登山用具一式を常備してあるから宿泊は可能だ。
普段は静かなこの“別荘”も、年に一度だけはにぎわいを見せる。私の退職時の職員仲間が、「ダーチャの会」と称して恒例の収穫祭を開くからだ。早いものでこの会も、16回を数える。
「遠くて大変でしょ」 とよく言われる。自宅から33km、近間でないから無駄や大変な面は確かにある。もとより家庭菜園は、原価を考えたら間尺に合わないもの。それを承知でなお続けているのは、諺(ことわざ)の「損して利を見よ」の快い体感が基なのかもしれない。
ともあれ、今は首を長くして春を待ち、何かと楽しみ多い通い作である。

(2012年新春号・広報とうま掲載文より・第61回エッセー)