「必然の中の偶然」  平井健一郎(3西3)

 大雪山系のトムラウシ山(標高2,141メートル)で7月16日、東京の旅行会社が企画した縦走ツアーの参加者18人が遭難、うち8人が凍死した事故は、みなさんも記憶に新しいものと思う。
 バラバラになったツアー客の一部がテントでビバークし、携帯コンロで暖をとり3人が生還している。このテントは昨年と今年、当社で施工している登山道整備のために、遭難した付近にある南沼キャンプ指定地に保管していたものである。
 当初、ニュース映像を見て、随分大型テントを装備した用意周到なツアー会社だと感心していたのだが、その後の捜査で明らかになり驚いた。この野営のための装備は、本来昨年10月にヘリコプターで荷下げする予定だったが、天候不順により断念し、今年にずれ込んでいたものだ。今年7月に入っても雨の日ばかりで、ヘリコプターは有視界飛行のため、日程も延期続きだった。そうした理由のこちらの必然性の中での出来事。今回の遭難事故は、ツアー日程、縦走コース、天候等さまざまな要因が不運に積み重なりあった必然性の中に発生した痛ましいものであった。
 付き添っていたガイドの一人が偶然にも発見した、ブルーシートで厳重に梱包していた中のテントとガスコンロ、毛布。そして、その中にはほかにも2張のテントとシュラフがあった。
 私も以前、晩秋の利尻山で低体温症になりかけたことがある。山は来る者は拒みはしないが、突然襲いかかる。もっと偶然が重なり、全部使ってもらい、遭難者が全員助かってほしかった。
日ごろから体を鍛え、準備万端な登山を心がけたいものだ。

(2009年10月号・広報とうま掲載文より・第37回エッセー)