2025年7月
当麻林業モデル確立 中瀬亘氏ご勇退
「おそれず挑戦。私の信念です」当麻町森林組合長として16年間、けん引され続けた中瀬亘氏、ご勇退。同組合総会で表明された席上、持続可能な林業経営当麻モデルを確立した手腕に対し、小川原和久 新組合長はじめ、関係者から労いと称賛の拍手が響いた。心から敬意と感謝を申し上げる。
同組合は上川管内で唯一、製材工場を持つ森林組合。森林整備から製材加工までを地域内で完結できる体制を有している。中瀬氏は2009年に組合長に就任。「当麻町を長く支えてきた基幹産業、林業と農業。これをまちづくりの土台にするしかない」との思いから、50年1サイクルの循環型林業の確立を目指す「長期ビジョン」を策定した。
資源量を把握し事業量を算定、必要人員や設備を割り出すと「工場の能力を向上させる必要がある。そのために大型製材加工機械の導入が必須」との結論に。今後を担う若手職員などの熱意が込められた事業計画に対し町も全面協力、2014年に大部分の製材機
械が更新された。
付加価値の高い建築材の製材加工能力が強化され、当麻町役場庁舎建設など公共施設に広く町産木材を使用。これから建設工事が始まる新たな幼稚園型認定こども園は、木のぬくもりあふれる園舎となる計画だ。また、これまで200棟以上の個人住宅が補助制度を利用し町産木材を活用して建てられた。林業活性化、移住定住促進へ「林業・木育の町」オール当麻の力が発揮されている。
さらなる高みへ。農業との連携を重視し全国初といわれる、当麻農協との協働による新樹種「クリーンラーチ」コンテナ苗の栽培に挑戦。林業と農業が手を携えることで、地域全体の活性化と持続可能な資源循環の実現を目指す。今年秋には約1万本のクリーンラーチ苗木が当麻町内に植栽される予定だ。
中瀬氏は人への投資を重要視。人材の定着へ向け、一年を通じた仕事量の確保、非正規雇用だった作業員を正規職員に登用。同一賃金体系を確立した結果、若者の関心が高まり、町の木育体験で工場見学に来た子どもが入職する例もあるなど、職員の平均年齢は15年前の50歳から38歳へと大きく若返り、従業員数は31人から45人へ増加。事業規模は1・5倍の9億円ほどに拡大した。厳しい状況が続く同業界からは再生劇に対し、驚きの声が上がる。
同組合は全国初の農林業合同事務所の構成団体。「基幹産業である農林業の全ての機関が連携できる。スピード感があるのが最大の武器です」中瀬氏はいつも誇らしく語っていた。
林業・木育の町。農林業連携の町。「おそれず挑戦」中瀬氏の信念は、次世代へ受け継がれていく。
当麻町長 村椿哲朗(広報紙我が郷土 令和7年7月号掲載)